─製造業に特化した連続買収で株式市場から高い評価─
少子高齢化の進展とともに社会課題となっている中小企業の事業承継 問題。中小企業白書によると、廃業企業の過半数が黒字企業だという。特に日本の製造業は、世界的に技術力を評価されながらも、後継者難により事業存続を断念する企業が後を絶たない。そんな課題の解決に向け、連続買収(譲受)というビジネスモデルで事業を拡大しているスタートアップ企業が株式市場で高い評価を受けている。2025年2月に東証グロース市場に上場した技術承継機構 <319A> だ。同社の新居英一社長に事業の存在意義と方向性を聞いた。(聞き手・樫原史朗)
●「個人が売って機関が買い増す」残念な状況を変えたい
──2025年2月5日に上場し、そろそろ1年が経過します。初値の2700円が現在(2026年1月21日終値)は1万1250円へと4倍化しています。
まず初めにお話ししたいのは、実は私はメディアにあまり露出したくない、という気持ちがあるということです。なぜなら私たちの事業は、優れた技術を持ちながらも何らかの理由によって事業を承継することが困難になっている製造業の企業をお手伝いするものです。言ってみれば“黒子”的な存在で、あくまで主役はグループ内の企業なのです。
ではなぜ、今回、取材を受けたかと言えば、どうしても個人投資家の皆さんにお伝えしたいことがあったからです。「株探」は、日本で最も個人投資家に影響力のあるメディアだということは承知しています。だから、あえて今回の取材をお受けしたのです。
──確かに上場以来、ほとんどメディアには露出されていないようですね。どのようなことを伝えたいのでしょうか。
先ほど株価の話をされましたが、上場以来1年弱の当社の株価の値動きを見て、ひとつ気になることがあります。それは、少なくない個人投資家の皆さんが、当社の決算を読み違えているのではないかということです。というのも、決算短信の1枚目でも、「株探」の決算情報のトップでも、まず企業業績として売上高とともに、営業利益、経常利益、そして純利益が表示されます。日本では当然のことかもしれませんが、当社ではこれらの数値は重視していません。事業の進捗を正確に測ることができないからです。
決算短信と決算説明資料に載せていますが、当社ではEBITDA(営業利益にのれん償却費と減価償却費を加えたもの)に譲受にかかるフィナンシャル・アドバイザー費用を足し戻した調整後EBITDAを最大の指標として事業を進めていて、同じく純利益に関しても、のれん償却費と譲受の影響を考慮した調整後の純利益を基準にしています。連続的な譲受によって成長する当社では、キャッシュフローの最大化こそが事業の目的であり、事業の収益力を正確に理解していただくためには、調整後EBITDAこそが最も重要な指標なのです。
例えば、昨年11月に発表した2025年12月期第3四半期の決算では、調整後EBITDAは前年同期比で3%弱のプラスとなっていますが、営業利益や経常利益は前年同期比で30%減となり、この数字が速報として報道されてしまいます。言うまでもなくこれは一時的な譲受費用が発生したためで、業績が落ち込んだわけではない。ですが、どうやらこれまでの値動きを見ていると、個人投資家の皆さんが速報を見て売却してしまっているのではないかと感じるのです。
──とは言え株価チャートを見る限りでは、それほど大きな調整はなく、株価は順調に推移しているように思いますが。
下がったところを、海外をはじめとする機関投資家が買い増しているからです。私は当社の上場前から、海外を含む機関投資家とはかなり対話をしてきて、現在も多くの機関投資家に当社の株主になってもらっています。彼らは私たちの事業の性質を正しく理解しているので、当社の決算内容にネガティブな反応はしません。これまでのところ決算翌日の当社の株価は、始めに売られてその後に大きく値を戻すという非常にボラティリティ(変動率)の高い値動きになっています。個人投資家の皆さんが売るタイミングを、海外の機関投資家が買いの好機にしている。私も個人投資家の経験があるのですが、非常にもったいない気がしています。
●世界に出て日本の製造業の強さを改めて実感
──なるほど。ところで貴社は、製造業に特化した連続買収企業という、日本ではほとんど例のない事業形態を採っていますが、なぜ、この事業を立ち上げたのでしょうか。
私自身、大学時代から起業をしたいという考えがありましたが、みずほ証券を経て2009年に産業革新機構の初期メンバーに加わったことが大きな転機となっています。ここでは多くのことを学びました。まず一つは、ビジネスには“大義”が必要だということ。同機構は政府系のファンドですから、投資を実行するとしても、国益や公益を考えなければなりません。“大義”がなければ人は動かないし共感も得ることができないと実感しました。
もう一つは、同機構で仕事をする中で、米国のダナハー
三つ目は、当時の同僚がたまたまヨシムラ・フード・ホールディングス <2884> に上場前から投資しているのを間近で見ていたことです。同社は国内の中小食品メーカーを買収し、持ち株会社として業績を拡大していくビジネスモデルなのですが、この成功例を見て、やはり日本でも同様のビジネスが展開できると確信が持てるようになりました。2014年頃のことです。
──その後、機構を退職して世界一周をしたとのことですが。
冒険投資家で知られるジム・ロジャーズのようなイメージで、世界を直接見てみたいと思ったのです。結局、2016年12月から2018年6月まで旅を続けたのですが、この間に感じたのは世界から見た日本の強みです。どこに行っても日本の製造業の存在感が大きい。そこで製造業の領域で連続買収企業を立ち上げるという気持ちを固めて、帰国後すぐに会社を設立したという経緯です。
●事業シナジーを求めないM&Aがなぜ、有効なのか
──これまで18社のM&A(企業合併・買収)をしていますが、この中で特に印象深い案件はありますか。
やはり最初の案件、2019年11月に譲り受けた豊島製作所が印象深いですね。このケースは私が社長に就任した例ですが、他の案件のモデルにもなる成功例だったと思います。いま振り返れば、転機になったのはコロナ禍によって売り上げが半減したこと。パンデミックの中、どうやってコスト削減できるのか、どうすれば売り上げを伸ばすことができるのか、社員に安心して働いてもらうにはどうすればよいのか、を必死に考え、ともに汗を流したことで全社員が結束し、業績をV字回復させることができたのです。「ピンチをチャンスに変える」とはよく言いますが、まさにこのケースはそれが当てはまりました。
その後、同社生え抜きの斉藤次男さんが社長に就任し、私は取締役の立場に降りています。当社の基本的な考え方は譲り受けた企業の独立性を尊重すること。元オーナーの社長が望めば続投してもらいますし、一時的に当社の人間が社長に就任することもありますが、軌道に乗れば譲り受けた会社の社員に社長を担っていただきます。私たちの目的は、経営の全てを支配することではありません。社員の中から後継者を選ぶなら、社員のモチベーションも維持することができますからね。
──M&Aの対象企業はどのような基準で選定しているのでしょうか。
まず、はっきりさせなければならないのは、私たちの事業の性質です。私たちは、ファンド会社ではありません。ですから、譲受した会社を再度売却することはなく、譲り受けた企業と伴走し続けることを目的にしています。これは売却が必要なファンドである産業革新機構ではできなかったことです。
ご存じのように日本の中小企業の事業承継は社会問題となっていますが、廃業した企業の過半数以上が黒字企業というデータがあります。非常に「もったいない」状況にあると言え、当社のもとには当事者の企業はもとより、地銀やM&Aアドバイザーなど350以上のパートナーを通して数多くの相談が入ります。
そんな中、当社では年間500件ぐらいの案件を精査し、多数の企業の経営者と直接面談をしたうえで、徹底的なデューデリジェンスを施し、適切なバリュエーションでのみ譲受を実行しています。今後も技術を持ち、収益力が高い会社をコンスタントに譲受していきたいと考えています。
──M&Aでは、往々にして事業シナジーについて問われることが多いと思いますが、新居社長はこれを明確に否定していますね。
そこは重要なポイントですね。確かに日本でM&Aというと、まず事業シナジーが意識されるのですが、実はそれによって高値掴みをしてしまうことが少なくありません。逆に言えば、高値掴みを正当化するために、事業シナジーという言葉を使っているケースが多いのではないでしょうか。むしろ事業シナジーが見込めるような特定の分野の企業に集中してしまうと、リスクも集中してしまうのではないか、というのが私の考えです。
その点、当社のグループ企業は、製造業であるという共通項はありますが、半導体から自動車、化学、鉄道、核融合、レース用製品、全固体電池と幅広い分野に分散されていて、どのような社会の変動があっても、連結の業績が一気に悪化しないようにポートフォリオを組んでいます。しかも製造業は、決して無くなることはありません。いま、AI(人工知能)が人の仕事を奪うという懸念が生まれていますが、製造業はAIによって生産性が高まることはあっても、置き換えられることはないのです。
●ダナハーを目指し、まずは日本で最も存在感のある連続買収企業の地位を確立する
──では次に、今後の中長期的な目標についてご説明ください。
まず日本の製造業において、真っ先に思い浮かべられるような連続買収企業グループとしての地位を確立したいと考えています。そして将来的には、売上高が3兆円、グループ人員7万人を超えるダナハーのようなグローバル企業を目指していきたいと思います。
当社はあえて、中期経営計画のような具体的な数字目標を掲げることはしていませんが、アメリカやスウェーデン、イギリスには連続買収企業の成功例が多く存在します。日本ではまだ大きな成功例は出ていないと言っていいかもしれませんが、私は創業前から徹底的に彼らの手法を研究し、実践してきました。海外を中心とする機関投資家はその部分を評価し、当社に投資をし続けてくれています。また、当社の泥臭い部分、現場に入って一緒に汗を流しながら、経営陣とともにバリューアップをしていくという点も評価をいただいていると考えています。
──海外展開についてはどのように考えられているのでしょうか。
確実に言えるのは、日本の製造業のマーケットは果てしなく広い、ということです。ですから当面は国内の製造業の譲受を続けていくことに力を入れていきたいと考えています。そのうえで将来的には、国内で培ったビジネスモデルをもとに、韓国や中国、アジアへと進出することを視野に入れています。各国とも今後、製造業に関しては日本同様に事業承継のニーズが拡大していくことは間違いありませんし、国内で盤石なビジネスモデルを確立しさえすれば、海外でもそのまま適用することができるはずだからです。
◇新居英一(あらい・えいいち)
株式会社技術承継機構 代表取締役社長。1983年生まれ。2007年、東京大学卒業後、みずほ証券入社。2009年、産業競争力強化を目的に経済産業省が設立した産業革新機構(現・産業革新投資機構)の初期メンバーとなる。この間、6社に出資し4件の譲渡を実行。2016年から1年半の世界一周経験を経て、2018年7月に製造業に特化した連続買収企業として技術承継機構を設立。2025年2月に東証グロース市場に上場。現在(2026年1月21日)までに、18社の企業を譲り受け、ホールディング・カンパニーとしてグループ全体で約1200人を擁する企業グループとなっている。
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