*11:32JST 矢作建 Research Memo(2):東海地域を基盤とした総合建設業。名古屋鉄道との関係も強み
■会社概要
矢作建設工業<1870>は、1949年5月に戦後からの復興を目指した山田勝男(やまだかつお)氏によって、愛知県西加茂郡挙母町(現 豊田市)にて設立された総合建設会社である。「誠実進取で自ら創造し、常に社会の要請にこたえる事業を行う」という企業理念の下、建築・土木・不動産の3つを主力事業として展開する。創業地である東海地域を基盤に全国へ事業を拡大し、現在は名古屋市東区に本社を置き、東京・大阪・広島・東北・九州に支店を構える。
1967年に名古屋鉄道の子会社であった名鉄建設(株)を吸収合併した。これにより従来の土木中心の事業構成から、建築分野へと事業領域を拡大し、さらに鉄道関連工事、特に軌道工事が同社の柱の1つとして加わった。現在でも、名古屋鉄道からの軌道工事や駅舎の建築・改修などを受注している。鉄道の安全運行に支障をきたさぬよう工事を遂行するなど、地域社会との密接な連携の下、事業活動を実施している。
また、同社は1995年の阪神淡路大震災を契機として耐震分野にも注力し、バブル崩壊後の建設不況期には「耐震補強工事」で活路を見出したことが、今日の財務基盤の安定にもつながっている。
分譲マンション、ビル・マンション管理、緑化、舗装、耐震補強、資材販売、ゴルフ場運営などの事業を手掛ける8つのグループ会社とともに、幅広い事業領域をカバーすることで事業ポートフォリオの安定化と持続的成長を実現する体制を構築している。
■事業概要
建築・土木・不動産の3事業がバランス、事業間のシナジーも発揮
1. 事業基盤と独自の強み
同社は、東海エリアを基盤としながらも、リニア中央新幹線の開業を見据えた経済圏の拡張を推進している。
同社の競争優位性は、1)地域基盤を生かした独自のネットワークと、2)事業間のスムーズな連携の2点に集約される。1)は、地域に根ざした活動を通じて、行政や地場企業との密接なネットワークを構築し、この基盤により、用地開発や民間プロジェクトの創出において、他のゼネコンとは異なる独自の強みを発揮している。加えて、名古屋鉄道との長年にわたる信頼関係を背景とした鉄道関連の特殊工事にも強みを持つ。2)では、設計・施工一体の提案力による高付加価値型の事業展開に加え、産業用地の造成工事(土木事業)・販売(不動産事業)から、同地での建設(建築事業)へと展開するなど、事業間のシナジーを効果的に発揮している点も強みとなっている。
2. 事業構造のバランス
2026年3月期中間期における売上構成は、建築事業が69.5%、土木事業が18.7%、不動産事業が11.8%であり、売上総利益の構成比は、建築事業が49.5%、土木事業が22.9%、不動産事業が27.6%である。このように、3事業は異なる特性を持ちながらも連携し、バランスのとれた収益構造を形成している。売上構成は変動するものの、利益面ではバランスを意識した事業運営により、安定性の高い収益基盤を築いている。
3. 事業別概要
(1) 建築事業
建築事業は、同社の中核を担う事業であり、物流施設、マンション、オフィス、商業施設、工場など、多様な建築物の設計・施工を一貫して担う点を強みとする。東海地域では大手設計事務所とも比較しうる規模の設計スタッフを有し、顧客と密接に連携しながら、ともにプロジェクトを“創り”上げるスタイルを追求する。こうした取り組みにより、設計施工一括受注の比率は全体の90%を超える水準となり、同社の高い利益率の源泉となっている。設計士など技術者の採用・育成は重要な経営課題の1つとして位置付けており、社会的に注目度の高いプロジェクトや先進的な案件へも積極的に参画している。
また、連結子会社である北和建設(株)、矢作ビル&ライフ(株)、(株)テクノサポートとの連携により、耐震補強、リニューアル、建設資材の販売などを含むトータルな建築ソリューションを提供する。耐震補強に関しては、建物の構造やニーズに合わせて様々な工法を展開しており、学校や庁舎など公共施設を中心に日本全国で4,400件を超える採用実績がある。
(2) 土木事業
土木事業では、道路・橋梁・上下水道・造成などのインフラ工事に加え、鉄道軌道や高架化などの鉄道関連工事を手掛ける。特に、名古屋鉄道向けの鉄道軌道工事は同社の専任領域であるため、毎期安定的な受注を確保している。
また、不動産事業における産業用地開発に伴う造成工事をはじめ、民間案件も多く受注する。そのため、官民比率がほぼ半々であることが特徴であり、経済環境に左右されにくい体質である。さらに、同社独自の「パンウォール(PW)工法」は、用地の制約がある現場でも施工性と安全性を両立させる技術として、中日本高速道路(株)(NEXCO中日本)や防衛省などでも採用実績がある。施工主にとっては用地買収が少なく済むメリットがあり、同社の技術力が反映された独自工法となっている。連結子会社であるヤハギ道路(株)は舗装工事を、ヤハギ緑化(株)は緑化・環境整備工事を担当し、土木分野におけるグループの施工能力強化につながっている。
(3) 不動産事業
不動産事業では、産業用地の開発・販売、分譲マンション事業、賃貸管理事業を展開する。産業用地開発においては、行政との強固な関係性に加えて、製造業の集積地という地域特性が競争優位性を支えている。BCP(事業継続計画)※や災害意識の高まりを背景に行政とも連携し、郊外や内陸への移転を進める企業の需要を捉える。また、土地造成(土木事業)、宅地販売(不動産販売)、設計・施工(建築事業)まで一貫対応が可能であり、部門横断的に収益貢献が期待できる。同社にとって過去最大規模となった大府東海開発プロジェクトは、2016年から開発を進めてきたが、2026年3月期中の販売完了を見込む。販売後は建築事業における受注拡大につながるため、今後も収益への貢献が継続する見通しだ。
※ 自然災害・大規模火災・テロ攻撃といった緊急事態に際し、企業が事業資産の損害を最小限に抑え、中核事業の継続または早期復旧を図るため、平時の準備と緊急時の方法を定めた計画。
同社子会社が担う分譲マンション事業は、主に東海圏においてファミリー層を中心とした開発・販売を展開し、地元密着型の事業運営を通じて安定した需要を確保している。立地や市場動向に応じてターゲット層を調整し、たとえば都心部では単身及び共働きで世帯収入が比較的高い層向け、郊外エリアではファミリー層向けなど、需要に合致した商品企画に強みを持つ。加えて、設計・施工を自社で一括して担うことで、品質管理や工期調整、住戸プランにも柔軟に対応することが可能だ。分譲マンションの開発は、不動産事業の収益源であると同時に、建築事業とのシナジーが生じ、グループの総合力が発揮される領域だ。
連結子会社のうち、矢作地所(株)はマンション分譲、不動産賃貸及び不動産開発を担う一方、矢作ビル&ライフはビル・マンションの管理、不動産賃貸及び分譲マンションのカスタマーサービス事業を手掛けている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 渡邉 俊輔)
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矢作建設工業<1870>は、1949年5月に戦後からの復興を目指した山田勝男(やまだかつお)氏によって、愛知県西加茂郡挙母町(現 豊田市)にて設立された総合建設会社である。「誠実進取で自ら創造し、常に社会の要請にこたえる事業を行う」という企業理念の下、建築・土木・不動産の3つを主力事業として展開する。創業地である東海地域を基盤に全国へ事業を拡大し、現在は名古屋市東区に本社を置き、東京・大阪・広島・東北・九州に支店を構える。
1967年に名古屋鉄道の子会社であった名鉄建設(株)を吸収合併した。これにより従来の土木中心の事業構成から、建築分野へと事業領域を拡大し、さらに鉄道関連工事、特に軌道工事が同社の柱の1つとして加わった。現在でも、名古屋鉄道からの軌道工事や駅舎の建築・改修などを受注している。鉄道の安全運行に支障をきたさぬよう工事を遂行するなど、地域社会との密接な連携の下、事業活動を実施している。
また、同社は1995年の阪神淡路大震災を契機として耐震分野にも注力し、バブル崩壊後の建設不況期には「耐震補強工事」で活路を見出したことが、今日の財務基盤の安定にもつながっている。
分譲マンション、ビル・マンション管理、緑化、舗装、耐震補強、資材販売、ゴルフ場運営などの事業を手掛ける8つのグループ会社とともに、幅広い事業領域をカバーすることで事業ポートフォリオの安定化と持続的成長を実現する体制を構築している。
■事業概要
建築・土木・不動産の3事業がバランス、事業間のシナジーも発揮
1. 事業基盤と独自の強み
同社は、東海エリアを基盤としながらも、リニア中央新幹線の開業を見据えた経済圏の拡張を推進している。
同社の競争優位性は、1)地域基盤を生かした独自のネットワークと、2)事業間のスムーズな連携の2点に集約される。1)は、地域に根ざした活動を通じて、行政や地場企業との密接なネットワークを構築し、この基盤により、用地開発や民間プロジェクトの創出において、他のゼネコンとは異なる独自の強みを発揮している。加えて、名古屋鉄道との長年にわたる信頼関係を背景とした鉄道関連の特殊工事にも強みを持つ。2)では、設計・施工一体の提案力による高付加価値型の事業展開に加え、産業用地の造成工事(土木事業)・販売(不動産事業)から、同地での建設(建築事業)へと展開するなど、事業間のシナジーを効果的に発揮している点も強みとなっている。
2. 事業構造のバランス
2026年3月期中間期における売上構成は、建築事業が69.5%、土木事業が18.7%、不動産事業が11.8%であり、売上総利益の構成比は、建築事業が49.5%、土木事業が22.9%、不動産事業が27.6%である。このように、3事業は異なる特性を持ちながらも連携し、バランスのとれた収益構造を形成している。売上構成は変動するものの、利益面ではバランスを意識した事業運営により、安定性の高い収益基盤を築いている。
3. 事業別概要
(1) 建築事業
建築事業は、同社の中核を担う事業であり、物流施設、マンション、オフィス、商業施設、工場など、多様な建築物の設計・施工を一貫して担う点を強みとする。東海地域では大手設計事務所とも比較しうる規模の設計スタッフを有し、顧客と密接に連携しながら、ともにプロジェクトを“創り”上げるスタイルを追求する。こうした取り組みにより、設計施工一括受注の比率は全体の90%を超える水準となり、同社の高い利益率の源泉となっている。設計士など技術者の採用・育成は重要な経営課題の1つとして位置付けており、社会的に注目度の高いプロジェクトや先進的な案件へも積極的に参画している。
また、連結子会社である北和建設(株)、矢作ビル&ライフ(株)、(株)テクノサポートとの連携により、耐震補強、リニューアル、建設資材の販売などを含むトータルな建築ソリューションを提供する。耐震補強に関しては、建物の構造やニーズに合わせて様々な工法を展開しており、学校や庁舎など公共施設を中心に日本全国で4,400件を超える採用実績がある。
(2) 土木事業
土木事業では、道路・橋梁・上下水道・造成などのインフラ工事に加え、鉄道軌道や高架化などの鉄道関連工事を手掛ける。特に、名古屋鉄道向けの鉄道軌道工事は同社の専任領域であるため、毎期安定的な受注を確保している。
また、不動産事業における産業用地開発に伴う造成工事をはじめ、民間案件も多く受注する。そのため、官民比率がほぼ半々であることが特徴であり、経済環境に左右されにくい体質である。さらに、同社独自の「パンウォール(PW)工法」は、用地の制約がある現場でも施工性と安全性を両立させる技術として、中日本高速道路(株)(NEXCO中日本)や防衛省などでも採用実績がある。施工主にとっては用地買収が少なく済むメリットがあり、同社の技術力が反映された独自工法となっている。連結子会社であるヤハギ道路(株)は舗装工事を、ヤハギ緑化(株)は緑化・環境整備工事を担当し、土木分野におけるグループの施工能力強化につながっている。
(3) 不動産事業
不動産事業では、産業用地の開発・販売、分譲マンション事業、賃貸管理事業を展開する。産業用地開発においては、行政との強固な関係性に加えて、製造業の集積地という地域特性が競争優位性を支えている。BCP(事業継続計画)※や災害意識の高まりを背景に行政とも連携し、郊外や内陸への移転を進める企業の需要を捉える。また、土地造成(土木事業)、宅地販売(不動産販売)、設計・施工(建築事業)まで一貫対応が可能であり、部門横断的に収益貢献が期待できる。同社にとって過去最大規模となった大府東海開発プロジェクトは、2016年から開発を進めてきたが、2026年3月期中の販売完了を見込む。販売後は建築事業における受注拡大につながるため、今後も収益への貢献が継続する見通しだ。
※ 自然災害・大規模火災・テロ攻撃といった緊急事態に際し、企業が事業資産の損害を最小限に抑え、中核事業の継続または早期復旧を図るため、平時の準備と緊急時の方法を定めた計画。
同社子会社が担う分譲マンション事業は、主に東海圏においてファミリー層を中心とした開発・販売を展開し、地元密着型の事業運営を通じて安定した需要を確保している。立地や市場動向に応じてターゲット層を調整し、たとえば都心部では単身及び共働きで世帯収入が比較的高い層向け、郊外エリアではファミリー層向けなど、需要に合致した商品企画に強みを持つ。加えて、設計・施工を自社で一括して担うことで、品質管理や工期調整、住戸プランにも柔軟に対応することが可能だ。分譲マンションの開発は、不動産事業の収益源であると同時に、建築事業とのシナジーが生じ、グループの総合力が発揮される領域だ。
連結子会社のうち、矢作地所(株)はマンション分譲、不動産賃貸及び不動産開発を担う一方、矢作ビル&ライフはビル・マンションの管理、不動産賃貸及び分譲マンションのカスタマーサービス事業を手掛けている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 渡邉 俊輔)
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