*10:42JST フジッコ:昆布製品・豆製品で国内トップシェア、PBR0.6倍台かつ配当利回り2.9%で推移
フジッコ<2908>は、昆布・豆という日本の伝統食材を中核に、「おいしさと健康」を追求し続けている食品メーカーである。主力の昆布製品・豆製品はいずれも国内トップシェア(昆布製品56%、豆製品50%)を有しており、長年にわたり安定した需要基盤を構築してきた。一方で、近年はヨーグルト事業を「第3の柱」と位置づけ、従来の惣菜・デザート領域を含めた事業ポートフォリオの再構築を進めている。2024年度の製品別売上構成比では、惣菜製品33%、昆布製品28%、豆製品18%、ヨーグルト製品12%、デザート製品5%、その他4%となっている。
競争優位性の源泉は、「煮て炊く」技術に集約される。昆布や豆は調理工程で崩れやすく、品質のばらつきが生じやすいが、長年の製造ノウハウの蓄積により、形状・食感・味を安定的に再現できる点が大きな強みとなる。原材料調達から加工、流通チャネルに至るまで、完全なコントロールは難しいながらも、上流から下流まで取引先と着実に関係を築いてきた点が、結果としてトップシェアの維持につながっている。製品開発においても、新商品を短期間で入れ替えるのではなく、顧客の声を拾いながら改良を重ね、結果として10年以上継続販売されている製品が全148品目中94品目を占めるなど、ロングセラーを育てる企業文化が根付いている点は、他の食品メーカーとの差別化要因といえる。
また、ヨーグルト事業では、「カスピ海ヨーグルト」を中心に独自ポジションを築いている。ヨーグルト市場全体では大手乳業メーカーが主導する価格訴求型商品が主流だが、同社は酸味が少なく砂糖を加えなくても美味しく食べられる点や、長寿地域で食されてきた背景といったストーリー性を前面に打ち出し、健康食としての位置づけを明確にしている。市場シェアは2~3%と限定的ではあるものの、プレミアムヨーグルトや豆乳・大豆ヨーグルトといったカテゴリーが拡大する中で、流通側も「カテゴリー商品」として扱う傾向が強まっており、ニッチながらも成長余地はある。取材時点では、乳由来に加え、大豆を用いたカスピ海ヨーグルトや、生クリームを使った「リッチモ」など、デザート寄りの商品も含めた展開が計画通りに進捗しているとのことである。
直近の業績動向を見ると、上期累計の売上高は27,745百万円(前年同期比1.1%減)、営業利益は506百万円(同96.4%増)で着地した。値上げ環境下において、価格改定がどこまで受け入れられるかが最大の焦点となっていたが、昆布製品については値上げ後も支持が回復し、4~5月の一時的な落ち込みを経て6月以降は持ち直し、足元では前年を上回る水準となっている。一方、豆製品、とりわけ煮豆は価格転嫁後の回復が鈍く、家庭の食卓における「添え物」的な位置づけから、価格上昇に対する抵抗感が相対的に強いとの認識が示された。ヨーグルトは堅調に推移している一方、デザートは価格改定後の物量確保が進まなかったようだ。利益面では、広告宣伝費の抑制に加え、本社間接部門を含む経費削減が奏功し、減収下でも利益を確保した。通期計画は、売上高56,600百万円(前期比0.8%減)、営業利益1,650百万円(同45.9%増)を見込んでいる。下期には、「丹波黒黒豆」の拡販で年末商戦を成功させ、「カスピ海ヨーグルト リッチモ」の認知向上と拡販を行うなどトップラインの拡大に取り組んでいく。
市場環境については、原材料価格や人件費の上昇を背景に、食品業界全体として値上げは進んでいる。同社としても、来春に一部製品での価格改定を予定しており、インフレ環境下では一定の理解は得られるものの、値上げ後に継続的に支持されるかどうかが重要となろう。トップラインの拡大については、数量成長が見込みにくい昆布・豆では単価引き上げと数量維持を基本としつつ、ヨーグルトでは数量拡大を狙う方針。特に昆布では乾燥昆布の調達が難しくなる中、生昆布を用いたシリーズなど、新たな供給形態によって数量確保を図っていく。豆についても、従来の煮豆にとどまらず、おかず風や菓子風といった用途拡張によるカテゴリー拡大を模索している。
中期経営計画(2025-2027年度)では、売上高600-630億円、営業利益率5.0%以上、当期純利益率3%台、海外売上高5億円、PBR1.0倍、ROE3.0%、新製品貢献度7.7%といった目標を掲げている。成長ドライバーとしては、引き続き昆布・豆の基盤強化を図りつつ、ヨーグルトと海外事業の拡大を位置づけている。昆布は産地と連携した昆布資源の保全や原料貯蔵技術の革新による品質向上、豆製品はシェア拡大と需要創造の両面で物量を拡大し、収益性を向上させていく。ヨーグルトは独自性の高い商品でファンを増やしてシェア向上を図る。そのほか、海外はタイの企業(FB Food Service社)買収により、トップラインで約20億円規模の売上が加わる見込みであり、短期的にも海外売上の積み上げが視野に入っている。非連続的な成長については、PPMに基づく事業選択を前提に、戦略的な整合性があればM&Aも検討する姿勢を維持している。そのほか、長期的には2031年3月期に売上高700億円台、営業利益率7.5%、海外売上高35億円以上、PBR1倍以上を掲げている。
株主還元では、年間配当46円以上の安定配当を基本とし、株主優待も含めた総合的な還元姿勢を維持する考えである。優待は、100株以上を半年以上継続保有の株主に優待品を贈呈している。また、PBR1倍割れの改善に向けては、単なる資本政策にとどまらず、事業収益力そのものを高めることが前提との認識が示されている。IR活動についても、将来性の訴求を軸に個人・機関投資家との対話を強化していく方針である。
総じてフジッコは、昆布は高収益を維持し、豆は再成長からの稼ぐ力の復元、ヨーグルトは成長を加速、おかずは収益性の修復、通販・素材・海外は膠着状態から脱するという製品ごとに戦略を着実に進めていく局面にある。昆布・豆という強固な基盤を持つ一方で、ヨーグルトという新たな柱をどこまで育成できるか、また値上げ後も支持される商品価値を維持し、海外展開の拡大含めて中期的な企業価値向上のカギとなろう。
<NH>
競争優位性の源泉は、「煮て炊く」技術に集約される。昆布や豆は調理工程で崩れやすく、品質のばらつきが生じやすいが、長年の製造ノウハウの蓄積により、形状・食感・味を安定的に再現できる点が大きな強みとなる。原材料調達から加工、流通チャネルに至るまで、完全なコントロールは難しいながらも、上流から下流まで取引先と着実に関係を築いてきた点が、結果としてトップシェアの維持につながっている。製品開発においても、新商品を短期間で入れ替えるのではなく、顧客の声を拾いながら改良を重ね、結果として10年以上継続販売されている製品が全148品目中94品目を占めるなど、ロングセラーを育てる企業文化が根付いている点は、他の食品メーカーとの差別化要因といえる。
また、ヨーグルト事業では、「カスピ海ヨーグルト」を中心に独自ポジションを築いている。ヨーグルト市場全体では大手乳業メーカーが主導する価格訴求型商品が主流だが、同社は酸味が少なく砂糖を加えなくても美味しく食べられる点や、長寿地域で食されてきた背景といったストーリー性を前面に打ち出し、健康食としての位置づけを明確にしている。市場シェアは2~3%と限定的ではあるものの、プレミアムヨーグルトや豆乳・大豆ヨーグルトといったカテゴリーが拡大する中で、流通側も「カテゴリー商品」として扱う傾向が強まっており、ニッチながらも成長余地はある。取材時点では、乳由来に加え、大豆を用いたカスピ海ヨーグルトや、生クリームを使った「リッチモ」など、デザート寄りの商品も含めた展開が計画通りに進捗しているとのことである。
直近の業績動向を見ると、上期累計の売上高は27,745百万円(前年同期比1.1%減)、営業利益は506百万円(同96.4%増)で着地した。値上げ環境下において、価格改定がどこまで受け入れられるかが最大の焦点となっていたが、昆布製品については値上げ後も支持が回復し、4~5月の一時的な落ち込みを経て6月以降は持ち直し、足元では前年を上回る水準となっている。一方、豆製品、とりわけ煮豆は価格転嫁後の回復が鈍く、家庭の食卓における「添え物」的な位置づけから、価格上昇に対する抵抗感が相対的に強いとの認識が示された。ヨーグルトは堅調に推移している一方、デザートは価格改定後の物量確保が進まなかったようだ。利益面では、広告宣伝費の抑制に加え、本社間接部門を含む経費削減が奏功し、減収下でも利益を確保した。通期計画は、売上高56,600百万円(前期比0.8%減)、営業利益1,650百万円(同45.9%増)を見込んでいる。下期には、「丹波黒黒豆」の拡販で年末商戦を成功させ、「カスピ海ヨーグルト リッチモ」の認知向上と拡販を行うなどトップラインの拡大に取り組んでいく。
市場環境については、原材料価格や人件費の上昇を背景に、食品業界全体として値上げは進んでいる。同社としても、来春に一部製品での価格改定を予定しており、インフレ環境下では一定の理解は得られるものの、値上げ後に継続的に支持されるかどうかが重要となろう。トップラインの拡大については、数量成長が見込みにくい昆布・豆では単価引き上げと数量維持を基本としつつ、ヨーグルトでは数量拡大を狙う方針。特に昆布では乾燥昆布の調達が難しくなる中、生昆布を用いたシリーズなど、新たな供給形態によって数量確保を図っていく。豆についても、従来の煮豆にとどまらず、おかず風や菓子風といった用途拡張によるカテゴリー拡大を模索している。
中期経営計画(2025-2027年度)では、売上高600-630億円、営業利益率5.0%以上、当期純利益率3%台、海外売上高5億円、PBR1.0倍、ROE3.0%、新製品貢献度7.7%といった目標を掲げている。成長ドライバーとしては、引き続き昆布・豆の基盤強化を図りつつ、ヨーグルトと海外事業の拡大を位置づけている。昆布は産地と連携した昆布資源の保全や原料貯蔵技術の革新による品質向上、豆製品はシェア拡大と需要創造の両面で物量を拡大し、収益性を向上させていく。ヨーグルトは独自性の高い商品でファンを増やしてシェア向上を図る。そのほか、海外はタイの企業(FB Food Service社)買収により、トップラインで約20億円規模の売上が加わる見込みであり、短期的にも海外売上の積み上げが視野に入っている。非連続的な成長については、PPMに基づく事業選択を前提に、戦略的な整合性があればM&Aも検討する姿勢を維持している。そのほか、長期的には2031年3月期に売上高700億円台、営業利益率7.5%、海外売上高35億円以上、PBR1倍以上を掲げている。
株主還元では、年間配当46円以上の安定配当を基本とし、株主優待も含めた総合的な還元姿勢を維持する考えである。優待は、100株以上を半年以上継続保有の株主に優待品を贈呈している。また、PBR1倍割れの改善に向けては、単なる資本政策にとどまらず、事業収益力そのものを高めることが前提との認識が示されている。IR活動についても、将来性の訴求を軸に個人・機関投資家との対話を強化していく方針である。
総じてフジッコは、昆布は高収益を維持し、豆は再成長からの稼ぐ力の復元、ヨーグルトは成長を加速、おかずは収益性の修復、通販・素材・海外は膠着状態から脱するという製品ごとに戦略を着実に進めていく局面にある。昆布・豆という強固な基盤を持つ一方で、ヨーグルトという新たな柱をどこまで育成できるか、また値上げ後も支持される商品価値を維持し、海外展開の拡大含めて中期的な企業価値向上のカギとなろう。
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