三井物産、化学品事業が着実に収益拡大し次の柱へ

投稿:2025/12/10 19:00

各パートの記事は、以下のリンクからご覧いただけます。
2030年に向けた飛躍的成長
ポートフォリオ良質化の進捗
企業価値の持続的な向上

2025年インベスターデイ 化学品事業戦略 サマリー

古谷卓志氏(以下、古谷):三井物産株式会社専務執行役員の古谷卓志です。化学品、食料、流通事業を管掌しています。

本日は、当社の化学品セグメントにおける主要な取組みと、今後の方向性をご説明します。

まず、今回のテーマとして化学品を取り上げた理由をご説明します。化学品セグメントは、数多くの事業の積み重ねにより業績を伸ばし、事業を「創り、育て、展(ひろ)げる」という当社の価値創造モデルを体現してきました。

また、原料から最終製品までの幅広い知見を活かし、セグメント間の横連携の中心的な存在として、産業横断の取り組みも拡大しています。

こうした積み上げの結果として、当期利益1,000億円規模が視野に入るセグメントへと育ってきています。この確かな成長を、投資家のみなさまにお伝えしたいと考えています。それでは、具体的な内容に移ります。

化学品セグメント業績推移

2018年3月期以降の化学品セグメントの業績推移をご覧ください。基礎営業キャッシュ・フローは、2022年3月期以降、概ね900億円レベルで推移し、当期利益は2018年3月期以降、年率12.3パーセントの成長を継続、2025年3月期には当期利益が過去最高を記録しました。

2026年3月期も増益基調を維持し、両指標とも過去最高レベルの更新を見込んでいます。この成長を支えている主要事業と、強みのポイントをご説明します。

化学品セグメントの主要事業

化学品セグメントは、ベーシックマテリアルズ本部、パフォーマンスマテリアルズ本部、ニュートリション・アグリカルチャー本部の3本部で構成され、トレーディングを源流とした事業群がバランスよく収益貢献しています。

基盤となる代表的なコア事業としては、「メタノール・タンクターミナル・塩田」、「自動車用樹脂材料」、そして肥料・農薬を中心とする「農業資材」であり、これらの収益貢献はセグメント業績の約6割を占めます。

例えば、タンクターミナルは、米国テキサス州およびベルギー・アントワープにて、当社100パーセント出資で運営し、グローバルな化学・エネルギー企業の物流機能を支えています。

自動車用樹脂材料は、長年の樹脂原料トレーディングを基盤に、北米において、日系メーカーとのジョイントベンチャーを通じて製造販売まで展開しています。

農業資材事業も、南米の上流権益や欧州を中心とした販売網をベースに、コア事業へと成長しています。

これに加え、成長領域として「アンモニア」、「森林資源」、「機能性食品素材」などを、新たなコア事業とすべく、投資を開始しています。

化学品トレーディング

化学品セグメントの基盤となるトレーディングは、現在もセグメント業績の約3割を担い、収益基盤を支えています。

タンクや船といった物流アセットを保有し、長期・短期の契約で供給や販売先を確保します。商品によっては製造アセットも保有し、これらをさまざまに組み合わせることにより、トレードフローに柔軟性を確保し、最適化を図っています。

生産者・需要家側のトラブルや、地政学的な理由を起因とするサプライチェーンの分断においても、一定のレジリエンスを持った安定供給体制を持つことができていると考えています。

この体制が顧客からの信頼をさらに強固なものとし、その信頼が次なる成長投資へと結びつく、好循環を生み出しています。

1.トレーディングと事業投資の好循環 メタノール事業例

化学品セグメントの競争力を支える4つの強みについて、ここから事例を交えて順にご説明します。

まず1つ目の「トレーディングと事業投資の好循環」です。当社のメタノール事業は国産品の取扱いからスタートし、1974年には価格競争力の高い海外産品の輸入に踏み出し、カナダからの本格的な輸入を、業界に先駆けて開始しました。

その後トレーディングを拡大していく中で機会をとらえ、2004年にはサウジアラビアのSipchemとともに、中東の原料優位性を活かした製造事業を立ち上げ、同時に自社の調達力も強化しました。

さらに、2015年には、シェール革命で競争力を増した米国に着目し、世界最大のメタノール需要家であるCelaneseと協働して、製造事業へと進出しました。

このように、調達・販売のトレード起点から、競争力のある製造投資へと踏み込み、世界主要地域で事業基盤を築いてきました。

さらに、顧客や社会的な低炭素メタノールのニーズの高まりに応えるべく、2025年にはEuropean Energyとともに、従来製法比で95パーセント以上のGHG削減が可能なe-メタノールの生産を、世界で先駆けて開始し、Maersk向け供給も始まっています。

また、長年のパートナーであるCelaneseの機能性食品素材事業に参画し、同社との協業を基礎化学品領域からニュートリション領域へと広げています。

トレーディングから投資、そして新事業創出への展開へとつなげ、まさに三井物産ならではの好循環を体現する事業に育っています。

1.トレーディングと事業投資の好循環 アンモニア事業例

続いて、アンモニア事業をご紹介します。当社は1970年代からアンモニアトレーディングを展開し、専用船の早期導入により、日本向けで約6割のシェアを持つ、長期安定供給体制を築いてきました。

この強固なトレード基盤に、エネルギーセグメントが有する天然ガス、CCSといった上流知見や、発電分野のネットワークを組み合わせることで、従来の化学品トレーディングを超える、新たなバリューチェーンの構築を進めています。

米国ルイジアナ州では、世界最大のアンモニア製造者であるCF IndustriesおよびJERAと共同し、製造工程のCO2排出量を95パーセント以上削減する、低炭素アンモニアプロジェクトBlue Pointに参画しました。また、UAEのルワイスでもアンモニア製造プロジェクトを推進しており、段階的な設備導入を経て、低炭素アンモニアの商業生産を目指しています。

肥料・化学原料としての用途に加え、水素キャリア・次世代燃料としての需要拡大が見込まれる中、当社はトレーディングと上流知見を融合させ、次の成長領域の確立に取り組んでいます。

2.「コア事業群」の着実な成長 農業資材(農薬・肥料)

次に、2つ目の強みである「コア事業群の着実な成長」についてご説明します。農業資材事業は、肥料と農薬の2領域で構成され、現在では両事業で100億円規模の貢献を果たすコア事業へと成長しています。

肥料・農薬ともにトレーディングを源流としていますが、肥料では、鉄鉱石事業で培った信頼関係を背景に、2010年にブラジルValeからペルーの燐鉱石権益を取得し、現在は米国肥料大手Mosaicと共同保有するなど、上流から販売まで一貫したバリューチェーンを構築しています。

農薬事業では、日系メーカーとの協業を通じて欧州で販売基盤を築き、近年では大農業国であるブラジルやインドへも販売網を拡大してきました。欧州の販売網を基盤に、当社自らが知財を保有する製品の販売も展開しています。

さらに、当社は2001年という非常に早い段階から、微生物を活用したバイオ製品事業に参画しており、この知見を肥料分野にも応用しています。加えて、種子事業や動物薬事業との連携も深め、農業バリューチェーン全体でのシナジー拡大を図っています。

3.戦略的なポートフォリオの良質化

こちらのスライドでは、3つ目の強みである「戦略的なポートフォリオの組換え」として、2018年3月期から足元の2026年3月期上半期までの、ポートフォリオの組替え実績を示しています。

この期間の累計の基礎営業キャッシュ・フロー7,000億円と資産リサイクル2,100億円を合わせて、合計9,100億円のキャッシュを獲得、それをベースに6,400億円の成長投資を実行しています。

時宜を捉えた資産リサイクルを着実に実行し、成長分野への再投資を通じたポートフォリオ組換えによりROICを着実に改善してきました。

今後も、自社の知見を有する領域での成長投資および資産入替を通じて、事業ポートフォリオの一層の良質化を進めていきます。

4.産業横断的取組み

4つ目の強みである「産業横断的な取り組み」についてご説明します。もともと化学産業はさまざまな素材を中心に裾野が広く、多くの産業との接点を持っています。当社の化学品セグメントは、原料・素材から機能材料まで、幅広い領域をカバーしており、この知見の広さと深さを生かして、他セグメントと連携した産業横断の取り組みを進めています。

先ほど触れた低炭素アンモニア事業に加え、森林アセットマネジメント事業では次世代・機能推進セグメントの金融ノウハウやカーボンクレジットの知見を掛け合わせ、オーストラリアを中心にグローバルに事業を展開しています。

化学品セグメントにおける紙・パルプ・建材の知見活用により、素材としての森林資源価値を付加し、他のアセマネファンドとは差別化された当社ならではの提案を顧客にしています。

こうした取り組みを支えているのが、化学品セグメントが長年の実ビジネスを通じて築いてきた、優良顧客との厚い信頼です。その信頼を基点に、各セグメントの強みをたばねることで、バリューチェーン全体を見渡しながら、現実解としての実効性の高いソリューションを提示し、提供価値の向上や新たな事業機会の創出へとつなげています。

産業横断の取り組みは、これまでのコア事業をさらに押し上げる新たな成長ドライバーであり、化学品セグメントの中長期的な収益拡大に向けた、重要な柱として位置づけています。

このように、全社を巻き込んだ連携こそが、総合商社である三井物産の真価であり、社会課題の解決と新たな価値創造を同時に実現する原動力となっています。

結び

最後に、化学品セグメントは基礎営業キャッシュ・フロー1,300億円・当期利益1,000億円を中経目標として掲げており、これまでの取組みにより、コア事業の競争力強化や事業ポートフォリオの良質化が進み、目標に向けた収益基盤は着実に厚みを増しています。

引き続き、産業を越えた連携力を発揮しながら、目標の早期達成に向け、収益力向上を着実に前進していきます。 

以上で私からの説明を終わります。ご清聴ありがとうございました。

質疑応答:ポートフォリオの良質化について

質問者:ポートフォリオの良質化に関する質問になります。2,100億円の資産売却はどの程度のROICの資産を売却されたのでしょうか? また、その入れ替えとして現在投資されている資産について、まだ収益貢献前のものも多いかと思いますが、将来的な見立てとしてどの程度のROICになるとお考えでしょうか?

外部から見ると、ポートフォリオの入れ替えが本当にROIC改善につながっているのかが見えにくいため、売却した資産と今後取得する資産の間にどの程度ROICの差があるのか教えてください。

古谷:個社ごとのROICは開示していませんが、売却した資産のROICは、当社が出資した時期や事業開始タイミングにより大きく異なります。そのため、スライド左側の売却した会社のROICが一概に低いから右側の新しい会社に投資するという単純な構図ではありません。現在投資している会社にはBlue Pointのように収益貢献が先になるものも含まれています。

資産売却と成長投資によって化学品セグメント全体のROICが3.4パーセントから5.7パーセントに上がった理由を単純にご説明することは難しいですが、当社は付加価値を高められる資産に投資し、ROIC改善が頭打ちになった資産を売却し、今後成長できる資産に投資してきた結果、2018年3月期から2021年3月期のROIC3.4パーセントに対し、2022年3月期以降は5.7パーセントまで向上させることができていると考えています。今後も、すでに収益化している事業の強化と、成長投資を行った事業の果実化によって、化学品セグメントのROICをさらに向上させていきたいと考えています。

質疑応答:トレーディング事業について

質問者:化学品について、トレーディングから投資へと発展してきた点を理解しました。当期利益ベースで現在約3割を稼いでいるトレーディング事業についておうかがいします。地政学リスクが高まる中で、商社のトレーディング機能が再評価され、顧客からの引き合いが増えているように見受けられます。実際に、御社のトレーディング機能に対するニーズや収益化の機会が増えている具体的な事例があれば教えてください。また、約3割を占めるトレーディング事業の利益は今後さらに増加するのか、増える場合はROIC上昇にもつながると考えられますが、その点についての考えも聞かせてください。

古谷:ご指摘のとおり、地政学的な問題や原料の偏在により、トレードフローが突然分断される、規制によって供給が停止する、といった事態が発生しています。そのような環境下で、商社が持つトレーディング機能は再評価されており、実際にニーズも増えています。ただし、これは現在の一時的な状況によるものとは考えていません。たとえば、当社は世界各地にタンクを保有し、多くのお客さまと取引しています。ある地域で供給が止まった場合でも、他地域のタンクを活用して時間調整を行うなど、柔軟な対応をすることが可能です。こうした対応力があるため、実際の取引量が増えているとお考えいただければと思います。

当社が扱う製品・商品のトレーディングボリュームが増えている背景には、サプライチェーンの変化を当社が柔軟に機能発揮をして物流を組み立てられていることがあります。その結果、お客さまからのオーダーが当社に集まる循環が生まれており、こうした需要を確実に取り込めるように、物流アセットも積み増しています。

トレーディングは現在、利益ベースで約3割を占めており、今後も事業の基盤として強化していきます。一方で、事業投資とトレーディングを分けて、トレーディングだけを伸ばしていくことは考えていません。先ほどご説明したとおり、供給や購入に関する物流契約と、製造事業やタンクターミナルなどの物流機能を結びつけ、これらを総合的に組み合わせてビジネスを拡大していくということです。特別にトレーディングだけを成長させるのではなく、トレーディングと投資を組み合わせて機能を発揮することで、結果として化学品セグメント全体のビジネスが増えていくと考えています。

質疑応答:今後の成長領域について

質問者:中期経営計画2026では当期利益目標が1,000億円であり、今年度の当期利益予想は800億円となっており、今後も当期利益を大きく伸ばしていく絵を描いていると思います。

スライド3に挙げている、ベーシックマテリアルズ本部、パフォーマンスマテリアルズ本部、そしてニュートリション・アグリカルチャー本部について、現在特に投資を進めている本部はどこか教えてください。また、今後3年、5年という時間軸で見た場合、どの領域が大きく伸びると考えているのか教えてください。加えて、本日のご説明の中でその代表的な事業として取り上げられた事業について、もう少し補足いただければ幸いです。

古谷:3本部が展開している領域の中で、各本部のアセット規模には差がありますが、今後の投資としては、成長領域として挙げているアンモニアをはじめとする低炭素の化学製品や、パフォーマンスマテリアルズ本部が保有する森林資源のアセット、さらにそこから派生するバイオケミカルやバイオリファイナリーなどのベーシックな化学領域につながる領域を考えています。例えば、Celanese社との協業では機能性食品素材に取り組んでいますが、これも同社のコンビナートの中で、ベーシックな原料から派生したものを活用しています。

当社としては、このような低炭素領域や森林資源を活用した自然由来のグリーン領域、さらに化学品の川下である誘導体の中でニュートリションにつながる領域など、将来成長が見込める領域に投資をしています。これらは今後の成長領域として投資していく分野であり、特定の本部に偏って投資をするのではなく、化学品セグメント全体において、川上、川中、農業、ニュートリションといった事業の間にある領域に成長の可能性があると考えています。そのため、枠にとらわれず柔軟に成長領域へ投資し、収益化していきたいと考えています。

質問者:枠にとらわれずに全体的に投資されるとのことですが、御社の化学品セグメントの歴史的な投資の経緯を見ると、一時期投資が停滞していた時期があったと認識しています。コロナ禍以降は外部環境が好転したこともあり、収益基盤が大きく強化されたかと思いますが、今後は投資をしなければ利益を積み増せない時代になっているとも感じています。化学品セグメントの投資額は今後増えていく見通しでしょうか。

古谷:成長投資をしっかり進め、事業の厚みを増しながら収益化を図ることは必要なアプローチだと考えています。化学品セグメントとしても、投資を継続しつつ収益を上げていくために、これまで以上に投資の可能性を追求していく方針です。その中でも、先ほどご説明した低炭素の化学品をはじめ、グリーン系やバイオ系、ニュートリションなど、スペシャリティ領域の川下に近い優良な投資案件等にしっかり投資をしていきたいと考えています。

配信元: ログミーファイナンス

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